東京・世田谷に伝わる花の伝説……サギソウ


美しい花はさまざまの伝説を伝えてくれます。多様な装いを纏うそれら伝説の中には、激しい情念の末に死を迎え、その場所に美しい花となって甦るという一つのパターンがよく見られます。

今回ご紹介するのはサギソウですが、いずれグビジンソウ、スイセンなども掲載したいと思います。

IMG_1683 武蔵国豪徳寺地区にあった世田谷城は、15世紀初め以来奥州吉良家の居館でした。16世紀中葉、当主であった吉良頼康は側室常磐姫を殊更に可愛がったため、他の側妾たちは姫を妬むようになりました。そして姫がお世継ぎを身ごもるに至って周囲の嫉妬は頂点に達し、根も葉もない姫の道ならぬ情事がまことしやかに作り上げられ、入れ代わり立ち代わり殿さまに告げ口されたのです。

最初は取り合わなかった吉良公も、度重なる讒言に心は次第に傾き、姫に辛く当たるようになりました。針のむしろに座る思いの姫はついに死を決意し、一羽のシラサギに遺書を託して、父の居城奥州奥沢城に向けて放ったのです。

姫の父親は太平出羽守、シラサギは、父の城にともに住んだ若い時代から可愛がり、世田谷の城にも連れ来たっていたものでした。

たまたま城外で狩りをしていた姫の主吉良公は、頭上を飛ぶシラサギ見つけ射落としました。そこで足に結び付けた遺書からすべてを知り、城に取って返したのですが時すでに遅く、自ら命を絶った姫と死産した男児の骸を前に立ち尽くしたのでした。

一方サギが射落とされた血の跡からは草が生え、サギの姿そのままをかたどった純白の花が咲き出ました。この花は、やがてサギソウと呼ばれるようになります。人間ではなく、鳥の情念が花に生まれ変わった……のでしょうか。幼いころから可愛がられ、主の情念を伝えるべく渾身の飛翔に飛び立ちながら果たせなかった鳥の情念でしょうか。

サギソウは今、東京都世田谷区の「区花」に制定(1968年)されています。

ただ登場人物も背景も同じながら、この話には姫がサギを放つ理由ともども、その後の筋書きにさまざまな展開が見られます。それでも「サギとその死」「跡に咲き出たサギソウ」に行き着く結論は同じです。

A)サギが飛び立つと、折から雨模様となり、足に結んだ遺書は水を含んで大きく膨れあがった。その重さに耐え兼ね、沼地に降下したサギは極度の疲れも重なって息絶える。

B)時あたかも戦国時代であり、小田原征伐の一環として世田谷城が豊臣氏の軍勢に包囲され……姫は窮状を救うため援軍を求める依頼状をサギの足に結び……父の城に向け飛び立ったサギは包囲軍の射撃を受け墜落……。

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